「アスペルガー症候群」をご存知だろうか。自閉症、発達障害というイメージが一般に浸透しているのではないだろうか。
厚生労働省の「平成28年 生活のしづらさなどに関する調査」によると、日本で医師から発達障害と診断された人は、推計約48万人となっている。
有名人がアスペルガー症候群だった、という話も耳にする機会もあり、アスペルガー症候群を含むASDなどの発達障害は、稀有な才能があるというイメージもあるのではないだろうか。
本記事では、アスペルガー症候群(ASD)の障害としての知識を解説したうえで、その特殊性について考察していきたい。
アスペルガー症候群の有名人は・・
- ① レオナルド・ダ・ヴィンチ
② ニールス・ヘンリック・アーベル(数学者) - そもそもアスペルガー症候群とは
- 発達障害・ASD・アスペルガー症候群
- 自閉スペクトラム症の特徴
子供の特徴=人に対する関心が薄い
大人の特徴=人より物に関心が強い - アスペルガー症候群 診断テスト
- こだわりの例=固執性が強い
- こだわりの強さが高い業績につながっている可能性
アスペルガー症候群の有名人について:そもそもどんなもの?
本章では、厚生労働省の資料を中心に、アスペルガー症候群、および発達障害の「分類」や「呼称(由来)」について解説をしていきたい。
発達障害とは大きく3種類存在し、その中のひとつに自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群などのASDが位置付けられる。
詳しく解説していこう。
発達障害とは
発達障害とは、大きく3種類存在する。具体的には、下記の3つである。
- 注意欠陥多動性障害(AD/HD)
- 学習障害(LD)
- 広汎性発達障害(POD)
厚生労働省の「発達障害の理解」という資料では、それぞれの位置づけを下記のように示している。
このように、発達障害は大きな3つの分類で構成されており、アスペルガー症候群は広汎性発達障害に位置付けられる。
ASDとは
ASDとは、「Autism Spectrum Disorder」の略で、広汎性発達障害の国際的な言い方であり、自閉症やアスペルガー症候群を含む統一的な呼称である。
英語としての「Autism」とは「自閉症」という意味であり、「Disorder」とは「障害」という意味である。ASDとは、自閉スペクトラム症、あるいは自閉症スペクトラム障害のことである。
厚生労働省の「e-ヘルスネット」によると、ASDを下記のように解説している。
これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていましたが、2013年のアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5の発表以降、自閉スペクトラム症(ASD;Autism Spectrum Disorder)としてまとめて表現するようになりました。
e-ヘルスネットより引用
なお、DSMとは、精神疾患や発達障害の診断の際に使用される世界的な基準である。
このように、アスペルガー症候群や自閉症と呼ばれるものは、ASD(自閉スペクトラム症)と呼ばれる。
アスペルガー症候群
ASDとして整理、統合される以前の「アスペルガー症候群」という呼称については、ハンス・アスペルガーという人が1944年に発見・同定したため、アスペルガー症候群と呼ばれていた。
現在では、前述のとおり「自閉スペクトラム症」と呼ばれている。
厚生労働省の「e-ヘルスネット」によると、自閉スペクトラム症と診断する基準について、下記のように解説している。
- 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ など)
- 発達早期から1,2の症状が存在していること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと
e-ヘルスネットより引用
自閉スペクトラム症の特徴
では、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)には、どのような特徴があるのだろうか。本章では、子供と大人に分けて、その特徴を概観していく。
また、強い特徴として「こだわり」があげられる。これについても、資料を活用しながら具体的な例を確認していく。
子供の特徴=人に対する関心が薄い
アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の子供の特徴としては、人に対する関心が薄く、コミュニケーションの取り方が独特で、臨機応変な対人関係を構築するのが不得手であるということだ。
精神疾患の医薬品の開発で、多くの実績を誇る大塚製薬が運営する患者サポートのwebサイト「すまいるナビゲーター」より、自閉スペクトラム症の子供の特徴を、以下に引用する。
自閉スペクトラム症の子どもは人に対する関心が弱く、他人との関わり方やコミュニケーションの取り方に独特のスタイルがみられます。相手の気持ちや状況といったあいまいなことを理解するのが苦手で、事実や理屈に基づいた行動をとる傾向にあり、臨機応変な対人関係を築くことが難しく誤解されてしまいがちです。対人関係でのこのような特徴的な行動は幼少期からみられ、年齢とともに現れ方が変化します。
すまいるナビゲーターより引用
このように、自閉スペクトラム症の子供には、感情を読み取ることが苦手で、他人とのコミュニケーションがうまくいかないことがあるようだ。
大人の特徴=人より物に関心が強い
アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の大人の特徴としては、人より物に関心が強く、予定が変われば混乱したり、大勢の人の場所が苦手だ、ということがいえるようだ。
厚生労働省の「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」では、自閉スペクトラム症の大人の特徴として、職場をイメージしつつ、以下のように解説している。
また、厚生労働省の「発達障害の理解」という資料では、下記のようにまとめている。
このように、子供の特徴との共通で周囲の人との関係性を構築するのが難しいことに加え、順序立てて物事を進めたり、一度に複数のことを行うのが苦手ということがあるようだ。
アスペルガー症候群 診断テスト
実は、いくつかアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の無料診断がweb上でも確認できる。
いくつか紹介するが、以下を鵜呑みにせず、心配であれば医療機関で専門医に相談することを進める。なお、診断そのものや、結果の妥当性については、当方は責任を負えないので、その点も留意して関心のある方は見てほしい。
こだわりの例=固執性が強い
自閉スペクトラム症の大きな特徴は、こだわりが強いことであるとよく言われるが、こだわりとは、「固執性」のことであり、固執性が強いという意味である。
現役の医師が運営する医療Webメディアの「メディカルノート」では、固執性について、下記のように例をあげて解説している。
このように、自閉スペクトラム症には、固執性が強いという特徴がある。
アスペルガー症候群の有名人2人(可能性が高い)
本章では、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)、あるいは高機能自閉症を公表している有名人を羅列するのはなく、学術的に発表されている論文を頼りに、歴史上の偉人について研究論文を参照しつつ、情報を深堀する形をとっていきたい。
尚、本章では、東京国際大学大学院臨床心理学研究科の紀要から、「歴史的業績を残した人物に関する発達障害についての研究」という論文を参照したい。
本論文を参照した理由は、過去業績・功績をあげている偉人の文字情報(伝記・伝文)から、成育歴にまとめなおし、前述のアメリカ精神医学会のDSM-5の診断基準に沿って鑑別診断を行うという、科学的で現実的な方法を採択していたからである。
もし、推測も含めた、発達障害だといわれるたくさんの有名人を知りたい場合は、検索すれば出てくるので調べていただきたい。
1.レオナルド・ダ・ヴィンチ
「モナ・リザ」などの作品で知られる、ルネッサンス期を代表する芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチは、自閉スペクトラム症の可能性がある。
「歴史的業績を残した人物に関する発達障害についての研究」の考察を下記に引用する。
- 動物に強い親近感を持っていた:自閉スペクトラム症B
- 絞首刑として処刑されたベルナルド・ディ・バンディーノ・バロンチェッリのつるされた死体をその場でスケッチし,着ていた服などについての細かい記載をしている:自閉スペクトラム症A
- 解剖の際には蝋燭の火のもとで人間の目を解剖したり,死体と同じ部屋で平然と過ごしたりしていたという:自閉スペクトラムA、B
- 若い時期から水や風に対する興味が強く,絵で描いてみたり飛行機を考えてみたりとしていた。その水に対する関心の強さから水流の変化を克明に描いたスケッチを何枚も残している:自閉スペクトラム症B
このように、レオナルド・ダ・ヴィンチの成育歴からは、自閉スペクトラム症の特徴といえる、固執性が強いという行動が読み取れたのである。
2.ニールス・ヘンリック・アーベル(数学者)
「アーベルの定理」などで知られる、ノルウェーの数学者、ニールス・ヘンリック・アーベルは、自閉スペクトラム症の可能性がある。
「歴史的業績を残した人物に関する発達障害についての研究」の考察を下記に引用する。
- あまりの数学に対する偏愛で,他の科目の宿題をなおざりにすることもあった:自閉スペクトラム症B
- 大学の教授たちの講義についてすべての注意を常に注いでいることはできなかった:自閉スペクトラム症A―
- 昼夜逆転をして夜に何時間も極度に働いたり疲労の中で苦しい仕事を続けたり日中早くにベッドに横になったりしていた:自閉スペクトラム症B
ニールス・ヘンリック・アーベルの成育歴からも、自分の興味のある分野への強い固執性という特徴が伺える。
こだわりの強さが高い業績につながっている可能性
自閉スペクトラム症の特徴である、こだわりの強さが、高い業績につながっている可能性がある。
なぜなた、数学と芸術といった、学問分野としては大きく異なる分野における偉人の考察結果を参照してみると、固執性・偏執性の強さが業績につながっている可能性を感じるからである。
もちろん、「歴史的業績を残した人物に関する発達障害についての研究」からは、自閉スペクトラム症という診断ができなかった優れた業績を残した偉人も数多くいるため、必ずしも自閉スペクトラム症だけが、優れた業績につながったとはいえない。
しかし、なかには自閉スペクトラム症の特徴が、優れた業績を可能にした人物もいたということである。
総括:アスペルガー症候群の有名人について
アスペルガー症候群を含む自閉スペクトラムという障害は、遺伝的な脳の働きが原因とされている。脳の働きが、常人とは違う働きをしているのである。
一方、その特徴的な脳の働きが、常人よりも特定分野におけるこだわりを強くし、そこに常人では発揮しえない集中力とパワーを割くことができるのは、果たして障害といえるのかどうか疑わしい。
また、日本は発達障害が多いというデータがあるが、それは変わった脳の働きから導き出される特異的な行動に対して、周囲が違和感を持ちやすいことの現れかもしれない。
発達障害は、特異的な脳の特徴であり、固執する分野に集中できる環境さえ整えられれば、偉人のような業績には届かなくても、人よりも優れた業績をだすことが可能かもしれない。