刑務所や拘置所にいる人間が結婚することを獄中結婚という。
一般的に考えると、罪を犯して自由のない者との結婚はメリットどころかデメリットの方が多いように感じるだろう。
しかし何らかの理由で刑期を終える前に結婚したい場合はもちろん、終身刑や死刑が決定された一生外に出られない者と獄中結婚する人も一定数いるのだ。
なぜ彼ら彼女らは獄中結婚するのか?どうやって愛を育む?あまり知られていない獄中結婚の制度と当事者らの心理について紹介する。
記事の内容
- 獄中結婚とは
- どうやって獄中結婚する?
- 獄中結婚のメリット
- 獄中にいる側の結婚する意味
①面会できるようになる
②心の拠り所・安心感
③苗字を変えられる - なぜ?犯罪者と結婚する意味
①面会するため
②法的な権利を得る
③性的に惹かれるハイブリストフィリア(犯罪性愛) - 獄中結婚の実例
①宅間守(付属池田小事件)
獄中結婚の相手は? - ②木嶋佳苗(首都圏連続不審死事件)
死刑囚のために離婚した男 - 実話も?獄中結婚を題材とした作品
①石原伸司の実話
【ネタバレあり】『獄中結婚 異様なラブレター』 - ②漫画『獄中結婚バチェラー~元・少年Aを奪い合う女達』
あらすじ - 総括
獄中結婚とは
獄中結婚とは、罪を犯して刑務所にいる囚人や拘置所で勾留中の者がする結婚のことである。
獄中にいる者同士の場合もあれば、一方が囚人で相手が一般人の場合もある。
日本においては、日本国憲法第24条の「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」とあることから、民法第739条で「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる」とされている。
つまり受刑者や死刑囚など、どんな立場でどんな状況の人であっても、両者の合意のもとに婚姻届を提出すれば結婚は認められるのである。
どうやって獄中結婚する?
獄中結婚のやり方は、一般の婚姻方法と同じである。所定の婚姻届に両性が記入し、管轄の役所へ提出すれば結婚できる。
まだ判決が確定していない未決拘禁者の面会は基本的に自由であるし、面会の機会や相手が制限される受刑者や死刑囚であっても「婚姻関係の調整」は例外として認められている。
そのため、本来なら会うことのできない親族や関係者以外であっても婚姻手続きは面会を通して可能なのである。
もちろん相手が塀の外にいるのであれば、郵送で婚姻届を送り、それを提出してもらうだけでも結婚は成立する。
獄中結婚のメリット
一般論としては、獄中結婚をする理由が分からないという人も多いのではないだろうか。
刑務所に入る前からの知り合いであったり、百歩譲って獄中の人間に恋愛感情が芽生えてしまったとしても、少なくとも刑期を終えてからにした方がいいのでは?と思う人が大半だろう。
しかし、獄中結婚をする当事者らには少なからずメリットがあるのだ。
獄中にいる側の結婚する意味
獄中にいる側の人間にとっては結婚するメリットや法的な理由は多い。
①面会できるようになる
受刑者・死刑囚は、弁護士などの法的な関係者と親族以外の面会は制限される。どんなに会いたい人がいても身内でない限りは認められない。
しかし、結婚して相手が配偶者になれば面会は可能だ。
既に恋人関係にあるなど私的な理由で会いたい場合はもちろん、この制度を利用して支援者と結婚し、面会を続けることで外部と繋がりを持つという者もいる。
②心の拠り所・安心感
罪を犯した人間であれど、長期間の服役は精神的につらいだろうというのは想像に難くない。
有罪になるか無罪になるか確定していない未決拘禁者はもちろん、刑期が決まっている受刑者は外に出た後の生活も考えなくてはならず、支えとなってくれるパートナーがいたら心強いだろう。
死刑囚にとっても、自分の死刑執行を待つだけの生活で結婚がわずかな安らぎになるのであれば、誰もそれを否定することはできない。
③苗字を変えられる
社会復帰を望む受刑者にとっては、自分の名前が足枷になることもある。
もちろん結婚することで犯罪歴が消えるわけではないが、婚姻して苗字が変わり移籍をすれば、社会的にも気持ち的にも心機一転しやすいのは間違いない。
市井の人間にとっては名前を変えた犯罪者の存在は恐ろしく感じるが、その大衆の心理から犯罪歴のある人間の社会復帰は難しくなっており、獄中結婚は更生したい者の希望の一つとなる。
なぜ?犯罪者と結婚する意味
獄中にいる側が結婚したい理由は何となく想像できるが、多くの人が疑問に思っているのは塀の外から囚人と結婚する者たちの心理である。
何の制限もなく自由に結婚できる人間が、なぜ制限だらけの獄中結婚をするのだろうか?
①面会するため
獄中にいる側の理由と同じだが、こちらの場合は純粋な感情や支援者以外に、ビジネス的な意図で面会したい者もいる。
受刑者や死刑囚の面会が厳しく制限されるのは上に書いた通りだが、これはもちろん記者などのジャーナリストも例外ではない。
しかし猟奇的で大々的に報じられた事件ほど大衆は注目する。その犯人に直接取材して記事や本を出版したい人にとっては、獄中結婚が一番簡単に本人へ近付く方法なのである。
②法的な権利を得る
配偶者になれば、当然法的な権利が発生する。
獄中にいる人間で資産が豊富である者は非常に稀だが、婚姻すれば相続権が発生するので、そうした配偶者の権利を得たいがための結婚ということもなくはない。
現在は何の価値がなくとも、大事件を犯した者であればあるほどその家や遺産が注目を集める可能性は高いのである。
③性的に惹かれるハイブリストフィリア(犯罪性愛)
ハイブリストフィリア(Hybristophilia、犯罪性愛)とは、反社会的な犯罪行為や犯罪者に対して性的な魅力を感じる一種のフィティシズムである。
被害者が自衛本能で加害者に好意を感じたり共感するストックホルム症候群とは違い、ハイブリストフィリアは「犯罪=悪」という認識はありながら犯罪者に惹かれてしまう者のことだ。
凶悪なシリアルキラーに世界中の異性から手紙が送られてくるなどの例は数多くあり、倒錯的に犯罪者を求める者が少なからず存在する。
獄中結婚の実例
以下に、日本での獄中結婚の実例を紹介する。
①宅間守(付属池田小事件)
宅間守は、2001年6月8日に大阪教育大学附属池田小学校で児童8名を殺害、15名を負傷させる無差別殺傷事件を起こした犯人である。
連日トップニュースとなり社会に衝撃を与えたこの付属池田小事件は、今もなお多くの人々の記憶に残っている。
宅間守自身は、2004年9月14日に大阪拘置所にて死刑が執行された。
獄中結婚の相手は?
殺傷事件を起こす前から小動物に対する虐待や隣人トラブル、数々の逮捕と入退院を繰り返していた宅間であったが、そんな彼の結婚歴は驚くことに計5回。
ほぼ数ヶ月単位で結婚と離婚を繰り返し、5人目の妻とは付属池田小事件を起こし死刑確定後に獄中結婚している。
その5人目にして最後の妻となった女性は死刑反対を訴えるクリスチャンで、文通を通して仲を深め、宅間の支援者として結婚した。
彼女は宅間自身の良心と善意を引き出そうと努力したそうだが、死刑が執行される最期まで宅間の口から被害者や遺族に対する謝罪の言葉が出ることはなかった。
②木嶋佳苗(首都圏連続不審死事件)
木嶋佳苗は、2007~2009年に起こった男性の連続不審死事件の犯人である。
少なくとも4名以上の男性の不審死に関与しているとされ、その他にも詐欺や窃盗など次から次へと起訴された。
いずれも被害者は男性で、木嶋佳苗とは愛人関係にあり、結婚を装って多額の金を騙し取るなどが常套手段であった。
死刑囚のために離婚した男
現在、木嶋は東京拘置所に収監された死刑囚である。
数多くの男性の人生を狂わせてきた彼女であったが、驚くことに3回の獄中結婚をし、今現在は『週刊新潮』編集部の男性と婚姻中だという。
先にも述べた通り、面会制限のある死刑囚と獄中結婚する記者は存在するが、この男性の場合は妻子がいたにも関わらず木嶋に惹かれ、彼女と結婚するために離婚したというから驚きだ。
更にこの彼からプロポーズを受けた際は木嶋自身も2回目の獄中結婚相手がいた状況であり、獄中の死刑囚でありながらW略奪婚となったのである。
実話も?獄中結婚を題材とした作品
日本だけでも数多くの事例がある獄中結婚だが、やはり被害者や遺族のことを考えると気持ち的に受け入れられないという人も少なからずいるだろう。
でも獄中結婚についてもっと知りたい!という方には、実際に経験した者の手記や、完全にフィクションとして楽しめる作品をおすすめする。
①石原伸司の実話
石原伸司は、元ヤクザ・作家であり、一時は「夜回り組長」としてメディアにも多数出演していた。
10代の頃から傷害など犯罪行為を重ね、20代で暴力団に入り、その後約30年を刑務所内で過ごした。
出所後はそうした自らの経験をいかして非行や暴力行為に走る若者への支援を行っていたが、生活苦が原因かまた犯罪行為を繰り返すようになり、殺傷事件を起こした後、2018年に入水自殺した。
【ネタバレあり】『獄中結婚 異様なラブレター』
そんな石原は刑務所時代に獄中結婚をしており、その時の手紙のやりとりや心情を手記としてまとめたのが『獄中結婚 異様なラブレター』である。
相手の女性も別件で収監されており、その事件の共犯者として逮捕されていた愛人男性からの紹介で文通を始めたというから驚きだ。
7年もの間お互い顔を合わせることができない状況で獄中結婚、それだけでも異様なのだが、当人らの心理を理解するには手記を読む以外に方法はないだろう。
石原の出所後、無事に同棲を開始した二人であったが、「夜回り組長」としての仕事を優先し過ぎた結果離婚している。
②漫画『獄中結婚バチェラー~元・少年Aを奪い合う女達』
獄中結婚を題材にした完全フィクションのコミックである。
あらすじ
ジャーナリストである透坂碧は、高校の卒業式で銃乱射事件を起こした死刑囚・鬼榊に手紙を送り続けていた。
ある日、そんな鬼榊から「獄中結婚したい」という返事が届く。
半信半疑ながらも鬼榊に会いに行く碧だったが、そこには自分の他に5人の花嫁がいたのであった。
「この中から残った1名に獄中結婚していただきます」、そして鬼榊との結婚をかけた花嫁達のバトルが始まる。
総括:純粋な獄中結婚はあるのか
なかなか常人には理解しづらい獄中結婚であるが、考え方によってはメリットもあり、もちろん法的にも問題ないことは分かっていただけたと思う。
しかし、長期の服役または死刑が確定している囚人はそれ相応の罪を犯しているのが事実であり、被害者や遺族のことを考えると素直に受け入れにくい感情がある人も多いのではないだろうか。
特殊な環境下であることから一般的な夫婦生活を送ることはできず、死刑囚との獄中結婚は特に、手の届かない存在だからこそ強い感情が働いているようにも感じる。
そういう意味で本当に純粋な気持ちでの獄中結婚はあるのか?獄中だからこそ損得勘定なしの愛情なのか?そこだけはやはり当人ら以外に真実を知る者はいない。