死体には不思議な現象が起こることがたまにある。
その例として挙げられるのが死蝋化だ。<
死蝋は《しろう》と読み、特に何も処置を施していないのに綺麗な状態の死体のことを言う。
では一体なぜこのようなことが起こるのか。
次の順番で死蝋化について解説していく。
記事の内容
- 死蝋化について
仕組み・石鹸との関係性・臭い - 死蝋化の条件とは
温度・水中・ミイラとの違い - 死蝋化していた事件
- 死蝋化していた実例
ロザリア・ロンバルト:福沢諭吉 - 条件を満たしていたが死蝋化しなかった出来事
死蝋化とは【仕組み・石鹸との関係・臭いなど】
普段生活していく中で死蝋化について調べる機会は滅多にない。
そもそも単語自体初めて聞いた人もいるだろう。
ここからは、死蝋化について基本的なことを解説していく。
死蝋化する仕組み
死蝋化の蝋は、ろうそくのろうでもある。
死体は放置されると肉が腐ってくるため、ブヨブヨしていたり見た目も悪くなる。
しかし死蝋化が起こった死体は、名前にもあるようにろうそくのようになり見た目も綺麗なまま長期間保存されているのだ。
死蝋化の特徴は死体が腐らずに、ほぼ生前と同じ原型を保っているところにある。
なぜこのようなことが起こるのか。
これは金属石鹸ととても深い関わりがある。
金属石鹸は脂肪分やマグネシウムなどで出来ており、普通の石鹸とは違い水に溶けない。
また汚れを落とす洗浄効果もない特殊な石鹸だ。
その代わりに、固めたり接着したりする際の効果を早めるために使われることが多い。
ではここで一度人間の身体についての話をする。
人間はさまざまな成分で構成されている。
その成分たちは、生命活動を終えると徐々に分解されていく。
分解されたマグネシウムやカルシウムと脂肪分が反応して、金属石鹸のようなものになる。
つまり体内の成分が偶然反応して金属石鹸が出来上がり、死体を覆うと死蝋化するのだ。
ここから長い間腐らないのは、金属石鹸によって身体中が保護されているからなのが分かる。
人間の脂肪分を使って石鹸を作る実験があったとかなかったとか。
金属石鹸と聞くと銀色の石鹸を思い浮かべる人もいるだろう。
これはステンレス石鹸、ステンレスソープといわれており金属石鹸とはまた違う成分で出来ているものだ。
頑固な汚れが簡単に取れたり、ニンニクなどの臭いが取れたりする。
石鹸は使っていくと小さくなり新しいのを買わなければならない。
ステンレスソープは半永久的に使えるため便利な商品だ。
死蝋化と石鹸の関連性
死蝋化という言葉はあるが、最近ではあまり使われなくなった。
その代わりに石鹸死体と呼ばれることがある。
死蝋化した死体が蝋燭のろうや石鹸の表面のようにすべすべしているという理由からだろう。
これはアメリカ合衆国のペンシルバニア州フィラデルフィアにあるムター博物館である。
ムター博物館といえばアインシュタインの脳が保管してある場所で有名だ。
さらにここには死蝋化した死体の展示があり、ソープウーマン、石鹸女と呼ばれている。
白骨化せずに石鹸のような見た目で発見されたため、ソープウーマンというあだ名がついたのだろう。
この亡くなられた女性は、裕福な家庭で生まれふくよかな体型をしていたらしい。
体内の脂肪分がどれくらいあるのかも、死蝋化するのに重要なのかもしれない。
人間はなんでも見た目で判断しがちな生き物だ。
そのため死蝋化した死体ではなく、石鹸のようなソープウーマンと名付けられたのだろう。
死蝋化した時の臭い
死蝋化した死体はこんな匂いという明確な情報はなかった。
心臓が動きを止めると身体中の細胞が働くのを止める。
それによって細菌が繁殖し遺体を分解するため、腐りはじめ異臭がするのだ。
死臭はとても強烈で言葉にするのは難しい。
チーズやナマモノが腐ったような独特な匂いがしたという意見もある。
出典:日本老年医学会雑誌・認知症高齢者の終末期にみられる臭いについて
これは名古屋大学医学部附属病院の臨床研修について書かれた資料だ。
死臭はその人が亡くなる直前のイメージが強いと記載されている。
ここで触れられているのは認知症の終末期についてだ。
認知症を患い末期になると、自分で生活がすることが困難になる。
食事や排尿排便、入浴などの行動も難しい。
ぐっすり眠ることも出来ず、ベッドから落ちてしまいけがをすることもある。
排尿したまま亡くなられるとアンモニアの匂いが残り、それが死臭と捉えられる。
和室で最期を迎えられた方であれば、畳の匂いが染み付いているかもしれない。
このように死臭はその人の生活環境によってかなり変わってくる。
亡くなられた方の人生を示しているとも言えるだろう。
そのため、一概にこれといった死臭はない。
死蝋化の条件【温度・水中・ミイラとの違い】
故人を綺麗な状態にしてあげたいという気持ちは誰にでもある。
遺体を死蝋化してほしいと頼む遺族もたくさんいるだろう。
しかし、故意的に死蝋化させるのはかなり難しい技だ。
そこで、死蝋化にはどのような条件が必要か解説しておこう。
湿度が高い場所
湿度は死蝋化するのにとても重要な要素になっている。
高すぎても低すぎても腐敗したり遺体に損傷を与えたりしてしまうのだ。
ではその温度さえ守れば可能か?
そんな簡単な問題ではない。
料理のように使う材料、分量が決まっているわけではないため、意図的に死蝋化させるのはほぼ不可能である。
というのも決まった温度はなく、自然によって出来上がるからだ。
暑いところでは食材もすぐ腐ったりしてダメになるので、涼しい方ががいいのではないかという意見も出てくるだろう。
雪山で凍死した死体の中には、綺麗な状態で見つけられた事件もある。
これは一見死蝋化しているように見えても、実際は凍っているだけのことが多い。
参考:NIKKEI STYLE・ミイラ「アイスマン」 最後の旅路はアルプス壮絶登山
凍死体として有名なのがアイスマンだろう。
アイスマンはなんと紀元前3300年頃に亡くなったと言われている。
そんなはるか昔の遺体が1991年に見つかったのだ。
ただ画像を見て分かるように、綺麗な状態で見つかったとは言えない。
凍死ではなく矢で射抜かれた失血による死因だったり、かなり時間が経っていることも理由に考えられる。
ただこれは死蝋化しているのではなく、ミイラ化に近い。
氷山などの寒いところで亡くなると、身体が凍ることがある。
それを見て綺麗な死体だと感じる人もいるが、あくまで凍っているだけだ。
どんな物でも凍らせてしまえばある程度はその形を維持することが出来る。
しかし時間が経ち温度が上がれば氷は溶け、そこから腐ってくる。
アイスマンのように失血死し、そのまま凍っている状態であれば、溶けた後に傷口から細菌が入り込み腐る可能性も考えられる。
このように死蝋化とは、自然の奇跡あってこそ生まれる現象なのだ。
水中における死蝋化
死蝋化には湿度に加えて、空気に触れない密閉した空間も必要になる。
密閉した空間といえば土や水の中を想像するだろう。
発見される死蝋化した死体は、土の中から見つかることが多い。
亡くなられた方は棺などに入れ、埋葬することが多かったためだ。
では水の中はどうだろうか。
浅い川で亡くなると身体は少し浮く状態になる。
顔だけ出ていることもあるだろう。
そうなると身体が空気に触れているため、死蝋化はしない。
川ではなく海であれば全身水に浸かるだろう。
それなりの湿度もあるし、深いところでは空気からも遮断されている。
死蝋化の条件は揃っているのだ。
ではなぜ水中で死蝋化した死体はあまり見つかっていないのか。
単純に土と比べて底がないからだろう。
場所にもよるが海の深さは平均3800mと言われている。
わざわざ死体を探すために危険を冒して海底に沈む人もいない。
以下は、カナダのセイリッシュ海で足だけ見つかった事件について書かれた記事だ。
出典:Yahoo!ニュース
上記には、なぜ足だけ浮くのかその仕組みについて述べられている。
人間がプールなどの水に入ると浮く理由は肺にある。
肺に空気が入ることにより、風船の役割を果たして人間の身体は浮かび上がる。
ただ空気が入らないと水中なので肺に水が入り、その重さによって沈んでいくのだ。
肺に限らず、空気の通り道は全て同じ原理になる。
基本的に海に落ちた人間の身体は、自然に分解されたり甲殻類や肉食の魚に食べられてしまう。
自然に分解され土になるともちろん死体は残らない。
では魚に食べられた場合はどうだろうか。
触ってみても分かるように、足首はとても柔らかい組織で出来ている。
甲殻類は柔らかい部位を好むため、優先的に食べ始める。
そこで靴を履いたまま海へ落ちたとしよう。
魚には靴を脱がせて肉だけ食べる技術はもちろんない。
足首だけ食べるため、足が身体から引き離される。
そしてそこから空気が入り、そのまま陸へ上がってくるのだ。
足だけ見つかった事例は靴を履いているものが多いのも、足首の部分だけ食べられてしまっているからだ。
確認する術はないが、海の底にいる死体は死蝋化しているかもしれない。
ミイラとの違い
ミイラは死蝋化と同じで永久死体の一種である。
永久死体とは特殊な環境下に死体が置かれたことにより、腐らなかったりして長い間その姿を保つことである。
どちらかというと死蝋化よりもミイラの方が馴染み深い単語ではないだろうか。
亡くなってから何年も経っているのに身体が残り続けるという怪奇性から、妖怪関係のコンテンツではよくミイラが出てくる。
ではミイラになる条件は何か。
死蝋化に必要だと言われている環境が真逆になると、遺体はミイラになるのだ。
つまり高温で風通しがよく、乾燥しやすい場所に放置するのが条件になる。
ミイラといえば砂漠というイメージがあるのもこれが理由だろう。
水分が失われるため肌が茶色くなり痩せこけていくので、死蝋化した遺体ほど見た目はあまり良くない。
そして死蝋化とのもう一つの違いは、ミイラには確立した方法が存在する点だ。
後の世代にも遺体を残すしたい時は、故意的にミイラ化が行われていたと言われている。
死蝋化していた実例【ロザリア・ロンバルト:福沢諭吉】
条件が厳しく運任せのところもある死蝋化。
かなり稀ではあるが、世界単位で見ると数百体遺体が見つかっている。
その中で、死蝋化した状態で見つかった実例を3件、紹介していく。
死蝋化したローマ時代の子供
出典:exciteニュース・遺体捜索犬が大手柄!紀元前8世紀の墓を発見(クロアチア)
石棺の中で死蝋化したローマ時代の子どもが見つかっていたと2019年11月に取り上げられた。
遺体捜索犬がかすかな遺体の匂いを感知し、発見に至った。
ローマ時代というと紀元前509年から紀元前29年までを指し、かなり昔の出来事である。
普通に亡くなり腐敗していると、ローマ時代を生きた子どもの遺体が見つかることはまずあり得ないだろう。
子どもが入れられていた石棺は、名前の通り石で作られた棺でかなり密閉性に優れている。
さらに石棺は湿度もそれなりにある土の中に埋められていたので、死蝋化の条件を満たしていたのだろう。
死蝋化したロザリア・ロンバルト
ロザリア・ロンバルトという名前を聞いたことがあるだろうか。
世界一美しいと言われているミイラとして名を轟かせているが、実際はミイラではなく死蝋化している。
ロザリアは20世紀初めに何と2歳でこの世を去った。
死因は肺炎で、死後はカプチン・フランシスコ修道会で葬られた。
たった2歳で亡くなった娘に悲しんだ両親は、綺麗なままにしてあげたいと懇願した。
それを受けた遺体保存専門家でもあったアルフレード・サラフィアが、独自の方法でロザリアの遺体に手をかけた。
そして世界一美しいミイラが誕生したのだ。
アルフレードは亡くなってしまったため、その内容は一切不明だった。
しかし2009年にイタリアの生物学者ダリオ・ピオンビーノ=マスカリの調査により、使用された薬品は明らかになった。
ただ方法などは明らかになっていないため、現在活用されてはいない。
福沢諭吉も死蝋化していた
福沢諭吉といえば一万円札で有名だ。
主要な作品として学問のすゝめが挙げられる。
慶應義塾の改革をしたりと勉強に力を入れていた福沢諭吉は、1901年に脳出血のため亡くなった。
葬儀が終わった福沢諭吉の遺体は、正福寺の墓地に埋葬されることになった。
その後宗教などの理由により、正福寺からお墓を移動しなければならなくなる。
そして掘り起こされた福沢諭吉の遺体を見て、その場に居合わせた人は驚いた。
亡くなってから76年ほど経っているのにも関わらず、遺体が腐敗することなく綺麗な状態だったのだ。
おそらくこれは、死蝋化が起こっていると考えられる。
というのも掘り起こされた福沢諭吉の遺体の写真は、遺族の申し出で残していない。そのため、本当に死蝋化していたのかどうかは定かではないのだ。
見つけられた後は、すぐに火葬されたという。
出典:一墓一会・福沢諭吉 死去76年後の改葬 – 改葬された有名人(1)
番外編:死蝋化していたか【定かではない事件】
死蝋化の条件は湿度が高く、空気に触れない場所に長期間遺体を放置することだ。
その条件を満たしているかのようにみえるが、真実はどうか分からない事件もある。
ここからは2点、紹介していく。
兵庫県尼崎市と死蝋化
尼崎事件は2012年10月に兵庫県尼崎市で起こった悲惨な事件だ。
尼崎連続変死事件とも呼ばれている。
被害者も複数名おり、犯人が兵庫県警本部の留置所で自殺したことにより迷宮入りした事件だ。
その中で一際目を引いたのがドラム缶の中に遺体とコンクリートを詰め、海に遺棄されていた事件だろう。
ドラム缶の中は空気は遮断されている。
さらにコンクリートも詰められていたので、空気は全くない状態だったと考えられる。
また重量もあるのである程度海に沈み、ドラム缶の中の温度は下がっていたはずだ。
遺体は死蝋化していたのではないだろうか。
滋賀県の琵琶湖と死蝋化
死蝋化と検索すると琵琶湖という単語が予測で出てくるだろう。
なぜなら琵琶湖には死体がたくさん沈んでいるという都市伝説があるからだ。
日本一大きい琵琶湖の東岸には、かつて安土城があったとされている。
この時代では政権争いが活発にあり、戦死した人たちが琵琶湖の底で死蝋化しているのではないかと噂されている。
琵琶湖では何度か死体が見つかっているが、死蝋化している件は確認できなかった。
例えば、次のニュースを見てほしい。
出典:Yahoo!ニュース
岸辺に打ち上げられたスーツケースの中に遺体が入っていたという事件だ。
ドラム缶に入れられ海に沈められた尼崎事件と少し似ている。
そしてこの遺体は、14年前に殺害された男性だということが分かった。
犯人は捕まって人を殺し琵琶湖に捨てたと自供したが、探しても見つからず打ち切りになっていた。
遺体は白骨化しており、死蝋化してはいなかった。
スーツケースもある程度は密閉した空間であったため死蝋化する可能性は考えられる。
睡眠薬を飲ませ、絞殺してから破棄したためその時に空気に触れ細胞の分解が始まってしまったのか。
次に、2020年6月のニュースを紹介する。
出典:京都新聞・琵琶湖岸に白骨化した遺体 釣りをしていた男性が発見
偶然魚釣りをしていた漁師が遺体を見つけたというものだ。
見つけた本人はかなりびっくりしただろう。
どちらのニュースも琵琶湖で発見された遺体だが、白骨化して発見されている。
二つ目に関しては沈んでいるのではなく打ち上げられているのだ。
まだ遺体が沈んでいる可能性もあるが、琵琶湖には死蝋化する条件が揃っていないのかもしれない。