ゾウリムシは真核生物の1種である。
ゾウリムシという名前は、小学校の理科の授業でも聞いたことがあると思う。
ただ、実際のところどんな生物なのかは詳しく知らない方も多いはず。
ゾウリムシは真核生物の1種だが、今度は「真核生物とはなんぞや?」という疑問が浮かぶのではないだろうか。
そこで、疑問にお答えすべくゾウリムシや真核生物について詳しく解説しよう。
記事の内容
- ゾウリムシは真核生物の1種
- ゾウリムシとはどんな生物?
- 葉緑体やクロロフィルはもっていない
- ミドリムシ・アメーバも真核生物なの?
- ゾウリムシはオスとメスだけじゃない?
- ゾウリムシの寿命
- ゾウリムシの培養方法
- 真核生物とは?原核生物との違い
- 生命の誕生と真核生物の始まり
- 総括
ゾウリムシは真核生物の1種
まずはゾウリムシについて詳しく見ていこう。
ゾウリムシとはどんな生物?
「ゾウリムシ」とはその名のとおり草履のような形をした繊毛虫の1種だ。
英語では「Paramecium 」と呼ばれている。
繊毛虫とは単細胞生物の一群で、真核生物である。
全身に繊毛という毛を持ち、その毛を使って移動をする生物だ。
17世紀末に微生物自体を発見したオランダのレーウェンフックによって発見され、主に水田、沼、池に生息している。
そして、ゾウリムシはこのような形をしている。
それぞれの役割は次の通りだ。
繊毛
体の表面に生えており、繊毛を使って移動する。
収縮胞
不用物を水と一緒に体の外に出す。排尿に似た機能を持つ。
細胞口
ゾウリムシの口。ここからバクテリアを取り入れる
食胞
細胞口から取り込んだバクテリアが口の奥で丸い食胞として、体の中を動き回り、栄養分を摂取する。
小核
細胞分裂のときに働く。
大核
指示系統を行う。人間でいうと脳の役割。
細胞肛門
体の中で動き回った食胞の中身はここを通り体の外へ捨てられる。排便機能と同じ。
細胞の長さは90~150μm、幅は40μm程度ある。(μはミリの0.001倍)
かなり小さい生物だが、細胞の表面には約3500本もの繊毛を持っており、その繊毛を使って泳ぐのだ。
障害物にぶつかると、泳ぐ方向を変えることができる機能を持っている。
塩化ニッケルという金属イオンに触れると動かなくなるので、顕微鏡で観察する場合に用いられることが多い。
繊毛は抜き取ることも可能で、ゾウリムシが生きていれば1週間ほどで再び生えてくる。
ゾウリムシはバクテリアを食べるが、細胞口の奥には細胞内へバクテリアを取り込む細胞咽口があり、バクテリアはここを通って食胞と呼ばれるところに取り込まれる。
食胞内で消化を行い、栄養素を細胞内に取り込みながら、食胞は細胞内を動き回るのだ。
また、排泄物は細胞後方の細胞肛門から放出される。
逆にゾウリムシを食べる生物は、大型のアメーバやディディニウムといった他の繊毛虫だ。
ディディニウムは細胞の先端の口にエクストルソームという噴射器官を持ち、これをゾウリムシに打ち込んで動きを止めてから飲み込んで消化する。
ゾウリムシは真核生物でも葉緑体はもっていない
「ゾウリムシは単細胞の真核生物である」と言うと「真核生物ならば、葉緑体は大抵持っているはずでは?」と思う人がいるがそうではない。全ての真核生物に葉緑体があるわけではないからだ。真核生物でも動物や菌類など葉緑体を持たない生物はいる。
ゾウリムシは動物なので葉緑体はないし、クロロフィルもないのだ。
ミドリムシ・アメーバも真核生物なの?
ゾウリムシ・ミドリムシ・アオミドロ・アメーバなどは「原核生物?それとも真核生物?」と疑問を持つ人も多い。
結論から言うと、上記はすべて真核生物である。
真核生物は、細胞核をはじめとして様々な細胞器官を持っている生物のことだ。
原核生物には、真正細菌(大腸菌やコレラ菌、その他)と古細菌(もっとも原始的生物:メタン菌、その他)くらいしか属さない。
原核生物は、細胞核やミトコンドリアのようにかなり複雑な構造を持った細胞器官を持たないわけである。
ゾウリムシはオスとメスだけじゃない?
ゾウリムシはオスとメスだけでなく、沢山の種類があると言われている。
ゾウリムシは1つの個体が単独で新しい個体を生み出す無性生殖でもあるわけだ。
「接合」と呼ばれる個体同士で遺伝子を交換する現象も確認されている。
ゾウリムシの寿命
ゾウリムシを含む単細胞生物はエサを与え続けることで、一生生き続けると考えられてきた。
つまり、「寿命がない」ということである。
しかし、近年では寿命はあるという考え方が一般的になってきている。
ゾウリムシは接合した後、約50回は細胞分裂しないと次の接合ができず、接合させないでおくと約600回程度の分裂で死んでしまうことがわかっているのだ。
つまり、接合をしないと分裂を繰り返し、やがて死滅してしまうということだ。
ゾウリムシの培養方法
このように、ゾウリムシは自ら個体を増やすことができる特徴をもっている。
人間の手によって環境を整えると、どんどん培養することができるので、メダカなどを飼育している人がエサとして活用することも多い。
そして、ゾウリムシの培養方法は簡単だと言われている。
ゾウリムシの個体とエサとなる米のとぎ汁をペットボトルに入れ、20度前後の場所に置いておくだけで光に当てる必要もない。
あとは、気温の変化が少ない場所に置いておくだけだ。
ただ、酸素だけは必要なので、ペットボトルの蓋は緩めておく必要がある。
数日経つと水面に膜が出来て、ゾウリムシが増えたことが確認できるだろう。
ゾウリムシ=真核生物とは?原核生物との違い
ここからは、ゾウリムシも属している真核生物について解説しよう。
真核生物と原核生物
真核生物とは、動物、植物、菌類、原生生物などの個体を構成する細胞の中に、細胞核と呼ばれる細胞小器官を持っている生物のことである。
真核生物以外の生物は、真核のように明確な境界を示す核膜を持たない細胞から構成される原核生物と呼ばれている。
要するに原核生物は遺伝情報をつかさどるDNAが細胞内でむき出しの状態になっている細胞のことだ。
真核生物の細胞は一般的に原核生物の細胞よりも大きく、場合によっては1000倍以上の体積を持つこともある。
真核細胞は植物細胞と動物細胞に分かれ、植物の個体を構成している植物細胞は光合成をするための葉緑体や液胞という細胞小器官を持ち、細胞膜の外側には細胞壁がある。
どうぶつ細胞には葉緑体や液胞や細胞壁といったものはない。
その代わり、細胞分裂の時に働く中心たいという細胞小器官はどうぶつ細胞のみにみられるのだ。
進化の道筋をもとにして生物を分類すると、地球上のすべての生物は3つのドメインのどれかに属しているわけだ。
引用:wikibooks
3つのドメインはそれぞれ「細菌( バクテリア)」「古細菌(アーキア)」「真核生物」である。
これらのうち、「細菌(バクテリア)」「古細菌(アーキア)」の2つが先ほども説明した原核生物になる。
真核生物はその名のとおり、真核生物ドメインに属している。
生命の誕生と真核生物の始まり
地球が誕生したのは今から46億年前だが、生命が誕生したのは38億年前と言われている。
生命の誕生は海の中で、地上に強い紫外線が降り注ぎ、火山活動は活発で、陸上は生物が存在するには厳しい環境だった。
生物の材料となったのはアミノ酸、核酸塩基、糖などの有機物で、これらは大気中の二酸化炭素や窒素、水などの無機物に雷の放電、紫外線などのエネルギーが加えられて作られたそうだ。
初期の生物はすべて単細胞ではっきりとした核を持たない原核生物であった。
原核生物は、海の中の有機物を利用し、酸素を使わない呼吸をして生息していたが、有機物には限界があり自ら栄養素を作り出す必要があったわけだ。
これが光合成の始まりで、35億年前にシアノバクテリアという生物が光合成を行った。
光合成によって、無機物である二酸化炭素と水からブドウ糖などの有機物を作るようになると、酸素を利用した微生物も誕生するようになったのだ。
原核生物が長い年月をかけて多様な進化を続けた結果、15億年前に真核生物が現れた。
もっとも古い真核生物の化石は、27億年前の地層から検出されたステランと呼ばれる真核生物に由来する有機物だ。
また、真核生物の化石そのものも21億年前の地層から発見されている。
総括:ゾウリムシ 真核生物について
記事のポイントをまとめよう。
ゾウリムシは真核生物の1種である
- 草履のような形をした繊毛虫の1種
- 英語では「Paramecium 」と呼ばれている
- 細胞の長さは90~150μm、幅は40μm程度
ゾウリムシは真核生物でも葉緑体やクロロフィルはもっていない
ミドリムシ・アオミドロ・アメーバなども真核生物
ゾウリムシはオスとメスだけでなく、沢山の種類がある
ゾウリムシの寿命
- 接合させないでおくと約600回程度の分裂で死んでしまう
ゾウリムシの培養方法は簡単
真核生物と原核生物の違い
原核生物が長い年月をかけて多様な進化を続けた結果、15億年前に真核生物が現れた
ゾウリムシは1日に2、3回分裂を行い、一定以上分裂すると、途中で性転換したり、自ら接合して死なないようにしたり、分裂する前の状態に戻ったりするなど、まだまだ解明されていない謎が存在する。
ゾウリムシの性や寿命などの謎の解明が、生命の進化や環境、医療の進歩につながる可能性もあり現在も研究が進められているのだ。