日本においてスクランブル放送という単語を目にするとき、それは大抵「放送法とNHK」に絡む話がほとんどです。
その問題に関しては多くの意見や判例も出ているのですが、そもそもスクランブル放送は何のためにあり、どのような仕組みになっているのかは論じられることは多くありません。
この記事ではNHK問題とは少し距離をとりながら、スクランブル放送の基本について解説し、後半では日本におけるスクランブル放送の現状について解説していきます。
記事の内容
- スクランブル放送の基本
- スクランブル放送とは何か?その意味
- 仕組みをわかりやすく解説
- スクランブル放送の技術
- スクランブル放送を巡る日本国内の問題
- NHKから国民を守る党
- スクランブル放送化に対するNHKの姿勢
- デメリットは?
- イギリスBBC放送無料化
- スクランブル放送といえば避けて通れないNHK問題
- 総括
スクランブル放送の基本
スクランブル放送というと有料チャンネルを連想する方が多いのではないでしょうか。
その連想は概ね正しいのですが、そもそもスクランブル放送というものがどのようなものなのか、詳しくは知られていないのが実情です。
まずはスクランブル放送というものの基本的な目的や仕組みについて見ていくことにしましょう。
スクランブル放送とは何か?その意味
よく聞くようになったスクランブル放送という言葉ですが、これは何を意味するのでしょうか。英語でスクランブル(scramble)には他動詞で「盗聴防止のため電波などの波長を変える」という意味があり、つまりテレビのスクランブル放送とは「特定の人を除いて盗聴できない放送」ということになります。
より具体的にはコンディショナルアクセスシステム(conditional access system:略してCAS)と言い、日本語では限定受信システムです。この言葉からも想像できるとおり、テレビを購入して視聴するために必要な「B-CAS」とも関連のある技術です。
日本においてテレビ放送が本格的に開始された1953年から、しばらくの間はアナログ放送の時代が続きました。その後人工衛星を利用したBS放送がスタートし、民間放送局が有料チャンネルを開始するにあたり。料金を支払っているユーザーだけが番組を視聴できるシステムが必要になりました。
そこでスタートしたのが株式会社ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)が提供するB-CAS方式という限定受信システムです。有料チャンネルの視聴者限定であれば何の不思議もないことですが、著作権保護を目的としたコンテンツのコピー制御のためにB-CAS方式が広く採用(現実的にはB-CASなしでテレビが見られない)されたので、話が少々複雑になっています。
しかし基本的には「有料チャンネルのユーザーだけに放送を見られるようにする」ことがスクランブル放送の意味であり意義なのです。
仕組みをわかりやすく解説
スクランブル放送の仕組みは技術的なことを説明しだすとキリがないので、仕組みについて分かりやすく触れておきましょう。
今の日本ではテレビ放送はすべてデジタル放送となっており、放送局は放送されるデータを一定の規則に基づいた鍵(B-CAS方式)によって暗号化します。
暗号化されたデータをもとに戻す(デススクランブル)ためにそれを解く鍵が必要になるのですが、その鍵が収められているのがB-CASカードなのです。
かつてアナログ放送の時代は受信機(テレビ)さえあれば放送を視聴することができました。
しかし現在では無料で見られる地上デジタル放送の電波にも暗号がかけられ、それを復元し視聴するためには受信機とB-CASカードの2つが必要で、2012年3月に地上波放送がアナログからデジタルへ完全以降してからはB-CASカードなしでテレビを見ることは出来なくなっています。
スクランブル放送の技術
現在の日本ではB-CAS方式によるスクランブル放送が一般的に利用されており、受信機を購入するとB-CASカードが自動的に添付されています。
地上デジタル放送のほか、BS・110度CS放送(スカパーを含む)もB-CAS方式が使用されています。また2018年10月から4K/8K放送に対応したACAS方式もスタートしていますが、ACASにはB-CASが内蔵されているので「4K/8K放送を見るためのB-CAS」とも言えます。
これら以外にケーブルテレビを見るためのC-CAS方式があり、ケーブルテレビを見るために必要なセットトップボックスに差してデータを復元しています。しかしケーブルテレビを通して地上デジタル放送などB-CASに依存した放送を見るためには、やはりB-CASカードが必要になるので、日本では受信機に必ずB-CASカードを差さなければならないのが現実です。
スクランブル放送を巡る日本国内の問題
冒頭で触れたとおり、日本においてスクランブル放送を巡る議論には必ずNHKの問題が絡んできます。
放送法などが時代にそぐわなくなっている側面もあるのですが、この問題の経緯について考えるとともに、国民生活に与える影響や公共放送のあり方も見てみましょう。
NHKから国民を守る党
2013年6月に元NHK職員の立花孝志が設立した「NHK受信料不払い党」ですが、2019年の統一地方選挙で躍進し一躍注目を集める存在になりました。
党名を「NHKから国民を守る党(N国党)」に変え掲げる公約は「NHKのスクランブル放送化の実現」であり、少なくない国民がNHKの受信料のあり方や、一部のNHK集金人による非常識な活動に疑問を感じていたことにより、この公約はネットなどでも大きな反響を呼んだのです。
現実的にどうかといえば、同党の主張は多くの共感を呼んだものの、その実現へは至っておらず、党首の立花孝志はNHKに対する威力業務妨害などの罪で、執行猶予付きながら懲役2年6月の実刑判決を受けています。
しかしNHKと公共放送のあり方や、異常に高額とされるNHK職員の報酬問題など、世間の目に触れるきっかけの一つだったことは確かです。
スクランブル放送化に対するNHKの姿勢
N国党の問題提起によってNHKのスクランブル放送化の議論が注目され、それに対するNHKの対応はあくまで放送法と公共放送のあり方を盾にした、言うに及ばぬ反論でした。
現在もNHKのホームページの「よくある質問」のページで、スクランブル放送化に対するNHKの考え方が掲載されています。
・NHKは、広く視聴者に負担していただく受信料を財源とする公共放送として、特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っています。
・緊急災害時には大幅に番組編成を変更し、正確な情報を迅速に提供するほか、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、視聴率だけでは計ることの出来ない番組も数多く放送しています。
・スクランブルをかけ、受信料を支払わない方に放送番組を視聴できないようにするという方法は一見合理的に見えますが、NHKが担っている役割と矛盾するため、公共放送としては問題があると考えます。
・また、スクランブルを導入した場合、どうしても「よく見られる」番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり、結果として、視聴者にとって、番組視聴の選択肢が狭まって、放送法がうたう「健全な民主主義の発達」の上でも問題があると考えます。
NHKよくある質問集より引用
恐らく放送法がこのままであればNHKの主張も永遠に変わらないでしょう。この姿勢が正しいかどうかについては触れませんが、そのあり方が問われていることは事実です。
デメリットは?
先ほどNHKのスクランブル放送化についてNHKの考え方にもありましたが、もしNHKが公共放送であるならば、緊急災害時に対応については彼らの言うとおりなのかもしれません。
しかし実際のところ巨大災害時、その中心地にいるとほとんどテレビなど視聴できないので、恩恵にあずかれる人は被害が無いか、もしくは軽微な人であるということになります。
ただスポンサーなどの制約がない点は、災害放送にとって大きなメリットであることは事実です。また総務省が行った東日本大震災における情報源に関する調査で、テレビが他のメディアを抑えてトップだったことから、その役割は大きいと言えます。
イギリスBBC放送無料化
イギリスの公共放送BBCはNHKが手本にしているといわれる放送局で、テレビの所有者から徴収する受信料を収入の中心に据え、「政府や企業の圧力に屈しない放送」を行うことを謳っています。
しかしNHKと同じように一部からは「放送内容が偏っている」と指摘されたり、海外向け放送については「イギリス政府のプロパガンダ放送」と批判されたり、問題点もあります。
また受信料が豊かではない人たちにとって大きな負担であることから、イギリス政府内でBBCの受信料廃止も議論されており、イギリス政府のドアーズ文化相は、アマゾンプライムやネットフリックスなどのスクランブル放送と同じ土俵に乗るべきという趣旨の意見を表明しています。
BBCの受信料は「国王ジョージ5世による特許状」が裏付けとなって徴収されるのですが、その特許が切れる2028年以降は受信料が廃止される可能性もあります。そうなったときのNHKへの影響は分かりません。しかし注目すべきイギリス政府によるBBCへの対応の行方です。
総括:スクランブル放送といえば避けて通れないNHK問題
記事のポイントをまとめます。
スクスランブル放送の基本について
- スクランブルとは暗号化のこと
- 本来の目的は有料放送のためだった
- 日本のスクランブル放送はB-CASの支配下
スクランブル放送を巡る様々な問題
- N国党のおかげで注目を浴びたNHKスクランブル放送問題
- スクランブル化などあり得ないというNHKの見解
- NHKの災害放送は被災地では役に立っていない現実
- 注目すべきイギリスBBCの受信料の行方
実は日本のテレビ視聴はそのすべてがスクランブル放送となっていて、B-CASがなければ見られないようになっています。しかしスクランブル化されていても見られるコンテンツと、お金を払わなければ見られないコンテンツがあり、NHKだけがお金を払っても払っていなくても見られる特殊なコンテンツになっています。
NHKの受信料を払っている人から見れば不公平なことで、国民側からは「NHKを見たい人だけお金を払って見られるようスクランブル放送に」という声がある一方、NHKは「不公平にならないようしっかり受信料を徴収する」と、議論がかみ合っていないようです。
BBCの受信料問題のよっては議論が再燃しそうですが、今一度NHKとスクランブル放送に関して、国民の問題として考える必要があるでしょう。
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