警察官などが勤務中の事故などで亡くなることを「殉職」と言いますが、そんな不幸な事故や事件のニュースで、時折「二階級特進」という言葉を目にすることがあります。
現実社会だけではなく、例えば「機動戦士ガンダム」など軍事ネタを扱うアニメ作品などでも聞くことのある「二階級特進」ですが、どのような意味や歴史があるのでしょうか。
今回は、ニュースなどでも聞き流すことの多い「二階級特進」について分かりやすく解説しながら、ちょっとした小ネタも説明します。
記事の内容
- 二階級特進とは?その歴史と意味
- 日露戦争で初めての「特別進級」
- なせ二階級特進を行うのか
- 二階級特進は軍人だけに適用されるのか?
- 二階級特進と退職金
- 二階級特進にまつわる素朴な疑問や小ネタ
- 殉職したと思い二階級特進後、生きていたら?
- 二階級特進は海外でもあることなのか?
- 機動戦士ガンダムの中での二階級特進
- 二階級特進という言い方で合っているのか
- 二階級ではない特進
- 総括
二階級特進とは?その歴史と意味
たまに聞くことのある「二階級特進」ですが、読んで字のごとく階級を特別に2段階昇進させるという意味です。
「特進」という言葉は正確には「特別進級」の略称であり、もともとは旧日本軍から伝統的に使われている呼び方です。
そんな「二階級特進」は何時から何のために始まったことなのでしょうか。まずは歴史から振り返ってみましょう。
日露戦争で初めての「特別進級」
日本において「特別進級」が初めて適用されたのは、1904年2月6日から始まった日露戦争において海軍の広瀬武夫少佐の戦死に対してです。広瀬少佐は開戦後まもない1904年3月27日、ロシア旅順艦隊の無力化を狙った作戦において、行方が分からなくなった部下の杉野孫七上等兵曹を探しに沈みゆく船へ戻り、3度捜索したのち敵弾の直撃を受け戦死しました。
その英雄的行動により、戦死した同日付けで中佐へ昇進したのですが「一階級特進」です。ちなみに広瀬少佐の探索で見つからなかった杉野上等兵曹も、同日付けで兵曹長へ特進しています。広瀬少佐は特進だけにとどまらず、決死的任務の遂行と部下の身を案じての戦士という英雄的行動から、戦士後すぐに「軍神」とされ大分県竹田市に「広瀬神社」が創建されました。
どうも戦意高揚のため利用されていたような気もします。日露戦争では他にも橘周太陸軍大尉が戦死後二階級特進するとともに「軍神」とされました。
その後、第一次上海事変でのちに「爆弾三勇士」と呼ばれることになる、江下武二・北川丞・作江伊之助の3名(ともに一等兵)が、敵陣鉄条網を突破するため爆弾を抱えたまま突入し(結果的に)自爆して戦死するという行動に対し、英雄的行動を顕彰するため「二階級特進」とし、これ以降功績抜群の戦死者は全軍布告のうえ「二階級特進」というのが慣例になりました。
なぜ二階級特進を行うのか
日本において二階級特進という扱いが始まった理由をみても、士気の向上や国民戦意の高揚という目的があったことは分かります。しかしそれだけの理由では、現在も警察官などに二階級特進を適用する理由が分からなくなります。
もっとも大事な理由として生前の活躍を賞するとともに、階級を上げることによって退職金や遺族年金の支給額を有利にし、残された遺族の生活が困らぬようにとの配慮があります。
なお戦前の日本軍においては、戦闘による戦死とそれ以外の公務中の殉職では明確な線引きが存在しており、戦死に準ずるとされる一部例外を除き公務中の殉職は「一階級特進」にとどめ置かれました。また旧軍では将官の二階級特進は認められていなかったため、ミッドウェイ海戦で奮闘のすえ乗艦と運命を共にした山口多聞少将は、特進の結果最終階級は海軍中将です。
二階級特進は軍人だけに適用されるのか?
日本において二階級特進が適用される公務員は、基本的に職務階級(例えば警察官だと警部や警部補など)が明確な職種です。自衛官・警察官・海上保安官・刑務官・消防吏員・入国警備官といった職種は、殉職によって二段階昇進させることが慣行となっています。
これら職務階級がある職種以外にも二階級特進に準ずる措置が取られた例もあります。
2003年11月29日イラクに派遣されていた日本人外交官2人がテロリストに射殺された事件では、殉職した奥克彦参事官が大使に、井ノ上正盛三等書記官が一等書記官へ、それぞれ二段階職階を上げるという外交官では例のない措置が取られました。
殉職に対しては二階級特進だけではなく、特に功労が認められた場合「賞恤金(しょうじゅつきん)」という弔慰金が支払われます。これも二階級特進と同様に、平時から職務の遂行に専念できるようにとの観点と、やはり負傷した本人(賞恤金はケガの場合の支給もある)や遺族への生活面の配慮から定められています。
二階級特進と退職金
先ほども少し触れましたが、二階級特進と残された遺族への補償について深掘りしましょう。何事もなく定年まで勤めあげ「定年退職金」を受け取るケースと違い、殉職によって退職する場合「死亡退職金」が支給されます。退職金は勤続年数と退職時の階級、それと退職理由などにより決定されるので、二階級特進後の階級で計算されたほうが多くなります。
また退職理由による割増率も職務上の殉職だと大きくなるので、残された遺族への補償が十分考慮された制度と言えます。
二階級特進にまつわる素朴な疑問や小ネタ
日本における「二階級特進」の歴史と意義は分かりましたが、「日本以外ではどうなのか?」や「二階級特進後に生きていることが分かったときは?」などの疑問や、二階級特進にまつわる色々な知識を解説します。
殉職したと思い二階級特進後、生きていたら?
名誉の戦士を遂げたと誰もが思い、二階級特進となった後になり「実は生きていた」と分かったらどうなるのでしょうか?あまり聞いたことのない話ですが、実例としてあることなのです。太平洋戦争中のことで、帝国海軍のエースパイロットの一人だった本田稔氏(最終階級は少尉)がラバウルの空戦で撃墜されかけ、数日後ラバウル基地へ奇跡的に生還したとき既に戦死扱いで、二階級特進になっていたそうです。
もう遺品整理もされ位牌も用意されていたのですが、生還したことで二階級特進は取り消され元の階級に戻りました。すべて本田稔氏の語っていることなので100%本当の事なのか分かりませんが、生還後に戦死報告をしてしまった上官が報告の撤回を嫌がり、本田氏を戦死の可能性の高い単独任務に就かせていたそうで、それが上層部の知るところとなり危険な任務を解かれ、二階級特進を取り消されたとのことです。
二階級特進は海外でもあることなのか?
日本では現在に至るまで続いている殉職後の二階級特進ですが、アメリカをはじめとした海外では同じような制度はあるのでしょうか?アメリカ軍の場合はベトナム戦争のころまでは戦死後の特進はあったようですが、最近は少ないようで、あらかじめ昇進の予定のあったものに限り戦死後の昇進を行います。
戦闘で死傷した兵士には「パープルハート賞」という勲章が授与され、名誉は与えられるものの日本のような昇進後の手当て増額のようなことは行われません。
ただアメリカでも警察官の殉死に対しては昇進は広く行われており、手当の支給も昇進後の基準で支払われます。ただしアメリカの警察組織は州や市の管理など地域ごとに大きく異なるため、その運用も組織ごとに違いがあります。
それ以外では第二次世界大戦時のドイツ軍で、やはり昇進予定だったものの特進を認める通達を総統のヒトラーが出したケースがありますが、基本的には勲章の授与など名誉色の強い対応がほとんどでした。つまり二階級特進という制度は「日本独自の制度」と言っても良いような制度なのです。
機動戦士ガンダムの中での二階級特進
機動戦士ガンダムは地球連邦軍とジオン公国との戦争を通したヒューマンドラマとして、その後のアニメーションへ多大な影響を及ぼした作品です。戦争を扱った内容なので戦死を扱うことは避けられません。そんなガンダムの中にも二階級特進という言葉が登場します。
いまでは「ファーストガンダム」と呼ばれる最初の作品のなかで、絶体絶命の状況に追い込まれたガンダムを救うため、敵のマゼラトップへ特攻して戦死したリュウ・ホセイが二階級特進になったのです。
本編ではリュウの二階級特進を伝えに来た地球連邦軍の将校に対し、アムロが「二階級特進・・・それだけなんですか?」と感謝の気持ちが感じられないことへ不満を言って殴られていました。
リュウ・ホセイは結果として中尉となったのですが、それよりも日本式といってよい二階級特進がガンダムの世界に受け継がれていたというお話でした。
二階級特進という言い方で合っているのか
二階級特進という言葉は、ここまで解説してきたとおり旧日本軍の「特別進級」というものが語源です。細かい話になりますが、進級とは軍隊で上の階級に進むことをさす言葉なので、現行の法律で公務員が昇進するさいの「昇任」という言葉とズレが生じています。だからといって「二階級特昇」とは言いかえず、あくまで今までの慣例に習って二階級特進という言葉が使われているのです。
また話は少しそれますが、旧日本軍では戦争末期に行われた特別攻撃隊による「神風攻撃」には、下士官の場合最大で「四階級特進」まで規定されていました。下士官のまま戦死すると残された遺族への補償が十分ではないための配慮とも考えられます。
二階級ではない特進
旧日本軍の事例で、戦死以外の殉職については一階級特進が適用されることを解説しましたが、その他の職種の場合は適用に違いはあるのでしょうか。
警察官の場合、事件などで殉職したときは二階級特進となり、最近の事例では2018年9月19日に発生した「東仙台交番襲撃事件」で殉職した当時33才の巡査長は、二階級特進し警部補に昇進しています。しかし近年は交通取締中の交通事故による殉職者は一階級特進にとどめています。
速度取締に会った経験がある方は解ると思いますが、走行中突然旗をもって警官が飛び出してきます。ホントに危ない行動です。もしあれではねられ殉職したとしても一階級の昇進でお終いです。
総括:日本的温情といえる二階級特進
二階級特進の始まりと、それがどのように運用されてきたかを解説してきました。よく見て行くと「いかにも日本らしい」温情のある慣例であると分かります。
違った見方をすると「家族の心配はいらないから任務に集中しろ」ということになるのでしょうが、勲章ひとつで済ませる海外の事例よりよほど温かみに感じることだと思いますが、皆さんいかがでしょうか。
日ごろからリスクのある業務に携わる人たちやそのご家族のことを考えると、この「二階級特進」という日本的な制度は今後も守り続けるべき慣行です。
引用:兵庫県警察官採用センター
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