人間誰しも死ぬのが怖いはずだ。
普段あまり意識していなくても、身近な人が亡くなることで死について改めて深く考えることも多い。
しかし、人によっては死がいても立ってもいられないほど恐ろしく感じられ、日常生活に支障をきたすほどになってしまうこともある。
このような症状をタナトフォビア(死恐怖症)という。
ここではタナトフォビアがどういったものなのか、どういった人がタナトフォビアになりやすいのか、またどうやって克服すれば良いのかを解説していく。
記事の内容
- タナトフォビアとは?
- タナトフォビアは精神科の管轄
- 精神的症状
- 肉体的症状
- 日常生活に支障をきたすことも
- 死への恐怖から不眠や過眠に
- アルコールやタバコなどに依存してしまうことも
- なりやすい人はどんな人?
- タナトフォビアの克服法
- 薬物療法で治った人はいる?
- 心療内科よるEMDR
- 死の恐怖の正体を明確にすることが治し方の1つ
- タナトフォビアと診断されたら
- カウンセリングで話される内容
- タナトフォビアの芸能人・有名人
- 子供もタナトフォビアになる?
- どんな人でもタナトフォビアになりうる
- 総括
タナトフォビアとは?
タナトフォビアとは、死の観念によって引き起こされる不安の症状のことである。人が死に至る過程や存在することが止まることについて考えるときに認識され、不安になってしまう。
また、身近な人の死などによって引き起こされることもあり、精神科医によって病的なものとされたり、異常と診断されることもある。
不安が根強く続き、日常生活に支障をきたす程度が診断の前提になってくる。
タナトフォビアは、1950年代に精神科医としても有名なジークムント・フロイトによって造られた言葉だ。
「タナト」はギリシア語で死を意味する「タナトス」から来ている。「フォビア」は恐怖症の意味であるため、「タナトフォビア」は「死恐怖症」という意味になる。
ただし、死に関する恐怖全般が怖いというわけではなく、「自分の死が怖い」と感じている状態をタナトフォビアと呼ぶことが多い。
たとえば夜寝るときに「このまま目が覚めないかもしれない」と怖くなったり、自分が死ぬことを考えて居ても立ってもいられなくなってしまうのがタナトフォビアだ。
それに対して「自分の親が死ぬことが怖い」「芸能人の死がニュースに出ていると怖い」といった場合は、他人の死に対する恐怖症で「ネクロフォビア」と区別されている。
タナトフォビアは精神科の管轄
タナトフォビアは病院で診てもらおうとすると、精神科の管轄になる。
タナトフォビア以外にもさまざまな恐怖症がある。
たとえば、高所恐怖症(アクロフォビア)の人は、あなたの身の回りにもいるのではないだろうか。
他にも社会恐怖症、犬恐怖症など、さまざまな恐怖症がある。
しかし、たとえ高所恐怖症だとしても普通は「病院に行った方がいいですよ?」とはならないだろう。
もちろん生活に支障をきたすようならば病院で診てもらう方がいいが、そうでないならば、その人の特徴・性質の1つにしか過ぎない。
そう考えると、タナトフォビアも必ずしも精神科で診てもらうような病気だとは限らないのだ。
精神的症状
タナトフォビアの精神的症状は、うつ病と似ている。
自身への死の不安がぬぐいきれず、ずっと不安がつきまとい、食欲不振になってしまったり、眠れなくなってしまったりする。
人によっては外に出るのが怖くなってしまい、日常生活に支障が出てしまうケースもある。
タナトフォビアに人生狂わされたような気がする。しらんけど。死んだらぜーんぶ無になるって思ったら人生やる気でなくね
— Blooming Moon (@Kurage_no_Kasa) September 30, 2021
去年の春はタナトフォビアだった。
「どうすればこの恐怖症の苦しみを減らせるか?」と苦しみながらも約5ヶ月間考えた結果、
「生きる死ぬも、物質同士の組み合わせが絶え間なく変わっていくこと」と、
「自分の意識は自分だけじゃなくて、周りの情報によるもの」
と答えを導けたら一気に楽になった— KENZO (@Genzo_music) September 30, 2021
タナトフォビアだけは克服できそうにない
— 耳トンボ (@ear_dragonfly01) October 4, 2021
肉体的症状
タナトフォビアは精神だけでなく、肉体にも影響を及ぼすことがある。
普段から継続的にストレスを感じることで、胃潰瘍になってしまう恐れがある。また、死に対する不安から、食欲不振になってしまったり、睡眠不足になってしまうこともある。
生命を営む上での活動に支障が出てきた場合は、病院で診てもらう必要があるだろう。
日常生活に支障をきたすことも
タナトフォビアの症状が深刻になると、日常生活に支障をきたす恐れがある。
たとえば、ドラマで人が死ぬシーンを見ると「自分もいつかは死ぬのだ」と考え込んでしまったり、殺人事件のニュースを見て「自分も殺されてしまうかもしれない」と怯えたりすることもある。
そうすると、ドラマを見ることもニュースを見ることもできなくなってしまう。
死んでしまえば、今大切にしているものもすべて手放すことになるため、新しく大切なものを得ることができなくなってしまうのだ。
そうして死への恐れが強くなっていくと、今を楽しむことができなくなってしまう。
新しい大切なものに出会える機会を自分でつぶしてしまうのは、かなりもったいないといえるだろう。
死への恐怖から不眠や過眠に
タナトフォビアによって不眠になることもある。
目をつむってこのまま目が覚めないのではと考えると、なかなか寝付けなくなってしまうのだ。
考えれば考えるほど目が冴えて眠れなくなってしまう。
そうして睡眠不足が続くことで、今度は過眠になることもある。
普段まともに睡眠を取れない分、まったく起きられなくなってしまうのだ。
不眠であれ過眠であれ、どちらも生活に支障をきたすため、体にとっても心にとってもよくない。
眠る前はできるだけ楽しいことを考えて、死のことを考えないようにしよう。
穏やかな気持ちになれれば、きっといい睡眠がとれるはずだ。
アルコールやタバコなどに依存してしまうことも
死への恐怖をまぎらわそうと、アルコールやタバコに依存してしまう人もいる。
アルコールは適量であれば気分も高揚して楽しむことができる。しかし、飲み過ぎてしまえば周りにまで迷惑をかけてしまう。
お酒を飲み続けた結果、仕事もまともにできなくなってしまえば、普通に生活することすら困難になる。プライベートでも酔っ払ってばかりだと、周りの人たちからの信用を失ってしまう恐れもある。
タバコも依存性が高いため、だんだんと数本吸うが増えていく。
最初は少量であっても、一日一箱でも足りないように数量が増えていくと、当然体にも悪影響を及ぼしてしまう。
いくらタナトフォビアから逃れるためとはいえ、アルコールやタバコに依存するのは禁物だ。
なりやすい人はどんな人?
人間は生きていく上でさまざまな経験をして、たくさんのことを学んでいく。
その際に、恐怖症を患ってしまうこともある。
タナトフォビアになってしまう原因として多いのは、身近な人の死だ。
身近な人の死をきっかけに、死について強く意識するようになり、その結果として、恐ろしくなってしまうことがあるのだ。
頭では「人はいつか死ぬ」と分かっていても、実際にそれを目の当たりにすると、心に深い傷を負ってしまい、タナトフォビアを発症させてしまうことがある。
また、大きな事故に巻き込まれてしまったり、大けがをしてしまったり、大病を患ったりすることで、改めて自身の死を強く意識する場合もある。
さらに現在では、メディアの発達も手伝って、さまざまな人の死を知る機会が多い。亡くなった人が同世代であったり、自分と環境が近かったりすると、その結果として恐怖心を呼び起こしてしまうケースもある。
タナトフォビアの克服法
タナトフォビアの克服法として、よく用いられるのが暴露療法だ。
これはタナトフォビアに限らず、恐怖症全般に用いられる方法で、恐怖を抱いている対象にあえて自分をさらすことによって慣れさせるというやり方である。
たとえば、高所恐怖症の場合は、あえて高い場所にいったり、閉所恐怖症の場合は狭いところにいったりといった感じだ。
しかし、タナトフォビアの場合、そう簡単ではない。
死に慣れることは誰にとっても難しいだろう。
人の死に触れることはできても自分の死に近づくことはできないからだ。
他人の死と自分の死はまったく異なるものだ。
そのため、いくら他人の死に慣れたとしても、一時的な気休めにしかならず、根本的な解決にはならない。
また自分の死が気になってくればすぐに再発するし、遅くとも自分が死ぬ間際になれば、深刻な死の恐怖がやってくるはずだ。
タナトフォビアの克服方法として、その他にもいろいろな方法があるが、根本的な克服にはならないのが定説だ。
薬物療法で治った人はいる?
薬物療法では、精神安定剤や抗不安薬などで、恐怖や不安を抑えることになる。
しかし、あくまでも一時的に症状を抑えているに過ぎず、根本的な改善には繋がらない。
また、薬の副作用や依存度が進むことにより、症状が悪化してしまう可能性もある。
そのため、暴露療法も薬物療法も一時的なそのばしのぎでしかなく、タナトフォビアを改善するには本当の原因や本質にアプローチする必要があるのだ。
心療内科よるEMDR
EMDRとは、心的外傷後ストレス障害に対する治療方法だ。
トラウマによる心の傷を負った人がその対象となる。
人間には良い記憶と悪い記憶がある。しかし、強烈な悪い記憶があるとその記憶が整理できずに、心の中にとどまってしまう。
夢を見ている間、人間の眼球はすごいスピードで動いている。この眼球の動きは記憶の整理に関連していると言われている。
EMDRはそれを利用して、起きている間にも眼球を動かすことで、悪い記憶を消化させるのだ。
こうすることで強制的に頭の中を整理して、悪い記憶の印象を薄れさせることができる。
死の恐怖の正体を明確にすることが治し方の1つ
タナトフォビアに苦しんでいる人は、死の恐怖の正体をはっきりさせる必要がある。
人間は自分が知らないことに対して恐怖を覚えることが多い。反対にすでに知っているものに対しては恐怖を感じづらい。
それでは死の恐怖の正体とは何なのだろうか。
死んでしまうと大切な人に会えなくなってしまったり、これまで得てきたものを失ってしまったり、やりたいことができなくなったりする。
こういったものが恐怖へとつながってしまう。
では、大切な人がいない・失うものがない・やりたいことがないという人は、死を恐れないのだろうか。
そんなことはないだろう。
そう考えると、死の恐怖の本質とは、死ぬとどうなるか分からないという未知のもの対する恐れということになる。
タナトフォビアと診断されたら
もし自身がタナトフォビアと診断されてしまったら、大切なのは考えすぎないことだ。
根が真面目な人ほど、深く考えてしまい、タナトフォビアを発症してしまう傾向がある。タナトフォビアの場合、深く考えれば考えるほど、症状が悪化してしまう可能性が高い。
そのため、あまり意識せずに、考えないようにすることも重要だ。
また、何か没頭できる趣味を持つこともお勧めだ。
自分の好きなことに時間を忘れて没頭することで、いつの間にかタナトフォビアが治っていたという人もいる。死に向けている意識を強制的に別な方向に向けることも有効な方法の1つだ。
カウンセリングで話される内容
タナトフォビアの原因は、死という概念に囚われているからと考えられる。
結局のところ、死というのは人間が創りだした概念に過ぎない。
そのため、まだ言葉を持たない赤ちゃんなどは、死の恐怖に悩まされることはない。同じように原語を持たない動物たちも死の恐怖に悩まされることはないだろう。
つまり、タナトフォビアとは、死という概念を抱えている人間だけに存在するものなのだ。
最初から存在していたわけではなく、言語や思考、概念といったものが受け継がれていく過程で発生した後付けであるとも言える。
そのため、死という概念はあくまでも後付けでしかないと気づくことが大切なのだ。
タナトフォビアの芸能人・有名人
タナトフォビアの芸能人や有名人として、以下のような人々がいる。
- 芥川龍之介(作家)
- ナポレオン(軍人・皇帝)
- 松本大洋(漫画家)
- 手塚治虫(漫画家)
- 渡辺えり子(女優)
日本を代表する漫画家の手塚治虫は、とにかく死にたくないと考えて、さまざまなマンガを描いたと言われている。
中でも「火の鳥」は、死にたくないという煩悩を持った人々の前に時代を越えて現れる。手塚治虫は、ただ死を恐れるのではなく、いずれ訪れる死に対して立ち向かっていた。その結果、さまざまな作品を生み出し、後世の人々にも大きな影響を与え続けている。
子供もタナトフォビアになる?
タナトフォビアは大人だけではなく、子供もなることがある。
幼児期から児童期にかけて、死に関する質問が増えることがある。
お子さんをお持ちの方ならば「死んだらどうなるの?」といった質問をされたことがあるのではないだろうか。
もちろん子供であっても、死に対する恐怖心はあるし、それを考えてパニックに陥ってしまうこともある。
それに対して大人は、子供の心情を理解して一緒に考えてあげる必要があるだろう。
しかし、それだけに囚われるのではなく、日常生活の中で何か不安なことはないか、悩み事はないか確かめることも大切だ。
毎日の楽しい部分に目を向けていくことで、自然と子供のタナトフォビアが解消されることもある。
総括:どんな人でもタナトフォビアになりうる
記事のポイントをまとめておこう。
タナトフォビアとは死恐怖症のこと
- 恐怖症はその人の特徴・性質の1つ
- うつ病と似た精神的症状が現れる
- 胃潰瘍・食欲不振・睡眠不足といった症状が現れる
タナトフォビアになりやすい人
- 身近な人が亡くなった人
- 大事故や大けが、大病を患った人
- 人の死に触れる機会が多い人
タナトフォビアの克服法
- 暴露療法
- 薬物療法
- EMDR
- 死の恐怖の正体を明らかにすることが大切
タナトフォビアの芸能人・有名人
- 芥川龍之介
- ナポレオン
- 松本大洋
- 手塚治虫
- 渡辺えり子
子供でもタナトフォビアになる可能性はある
多くの病気や怪我と違い、タナトフォビアは見た目からでは判断できない。精神的な疾患のため、他の人から健康に思われている場合も多い。
また、タナトフォビアはどんな人にも発症する可能性がある。今はそれほど死に対して意識していなくても、何かをきっかけに強く死を恐れてしまう可能性は十分にあるのだ。
自分の恐怖症や病気について打ち明けることは勇気がいることだが、誰かに話すことで解決に向かう場合も多い。身近な人からタナトフォビアであることを打ち明けられたら「そんなはずはない」と突き放すのではなく、親身に話を聞いてあげることが大切だ。
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